仙台高等裁判所 昭和39年(ネ)448号 判決 1966年9月29日
控訴人(原告) 浅野一郎 外七三名
被控訴人(被告) 日本国有鉄道
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。被控訴人は、原判決添付債権目録(第一)(第二)各記載の控訴人らに対し、それぞれ同目録(第一)(第二)各賃金カツト額欄記載の金員およびこれらに対する昭和三七年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件各控訴を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は、控訴代理人において、当審証人野村平爾、松岡三郎の各証言を援用し、甲第三、六号証を除くその余の甲号各証の成立についての従前の認否を「否認する。」と訂正した外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
当裁判所は、控訴人らの各本訴請求中原判決添付債権目録(第一)記載の控訴人らの請求をいずれも原判決認容の限度において正当として認容し、右控訴人らのその余の請求および同目録(第二)記載の控訴人らの請求をいずれも失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決理由第三項につき、次の点を補足、付加する外、原判決と同一であるから、原判決理由説示の事実の確定および法律判断を引用する。
一、労働基準法第三九条の有給休暇制定の趣旨は、労働者の労働による肉体的、精神的疲労を回復し、労働力の維持培養を図るとともに、労働者に人たるに値いする生活を得しめんとするにあり、その実効を挙げるため特に有給としたものと解すべきところ、その本質的趣旨に鑑みるときは労働者が有給休暇をどのように利用するとも原則としてその自由であるというべきである。しかし、有給休暇を争議行為に利用できるか、どうかについては、別に一考を要する問題である。思うに、労働者は、労働契約に基づき、労務供給に対する対価として使用者から賃金を受けるものであるから、労務の供給のないところに原則として賃金の支払いがないのであるが、有給休暇により有給のままで権利として労務供給の義務を免れるのがこの制度なのである。ところで、業務の正常な運営を阻害するストライキ(同盟罷業)の本質は、労働契約上負担する労務供給義務を組織的に一時不履行することにあると解すべきであるから、労働者は、ストライキに参加することにより、その間の賃金を受け得ないものというべきである。これによれば、労働者が継続勤務し、労務の継続的供給があつて、有給休暇の存在意義があり、また正当に賃金の支払を受け得るのである。したがつて、有給休暇は、労使間に労務の供給、対価としての賃金の支払を根幹とする正常な労使関係の存続することを前提とするものであり、ストライキは、一時これを破るものであるから、有給休暇制度の本質的趣旨とストライキの本質とを対比して考えると、両者は両立し得ない別個の体系に属するものであつて、労働者は、有給休暇を争議行為に使用する目的で使用者に対し、右休暇の請求をすることはできないものというべきである。
二、国鉄職員たる控訴人らは、公共企業体等労働関係法に基づき、ストライキ、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならないことは勿論、このような行為を共謀したりそそのかしたり、あおつたりしてはならないのにかかわらず、その所属する国労仙台地方本部の指令によるとはいえ、岩沼駅を拠点とした時限ストに参加し、これがため同駅における旅客列車の出発を遅延せしめたり、一般業務に影響を与えたりしたのであつて、このことについては控訴人らも認めて争わないのであるから、控訴人らは前示有給休暇制度の趣旨に違反してこれを違法な争議行為に使用したものというべく、従つてたとい有給休暇につき被控訴人の承認を得ていたとしても、被控訴人においてこれが成立を否定することができるものと解すべきである。
よつて、控訴人らの本件各控訴は、理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条、第三八四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 檀崎喜作 野村喜芳 佐藤幸太郎)